この作品で描かれているメガバンクIBBCは、実在する銀行がモチーフになっていると思われる。やはりルクセンブルグに籍を置くパキスタン系のイスラム銀行BCCI(Bank of Credit and Commerce International)がそれで、実際にイスラム諸国の大量破壊兵器開発の資金源となり、アフガニスタンではCIAに資金仲介を行ったとも言われている。おそらくはこの作品で描かれているような証拠の揉み消しや証人の殺害も、あながちフィクションばかりとは言い切れないような気がする。
さて、そんな巨悪に単身で立ち向かう、クライヴ・オーウェン扮するインターポールの捜査官サリンジャー、そんな日本人好みのストーリーだったが、銀行の金の流れがほとんど描かれていないのは致命的な弱点だ。これではIBBCが銀行ではなく単なるマフィアのような犯罪組織と何ら変わるところがなく、邦題にもなった“ザ・バンク”が意味を持たなくなってしまう。また、サリンジャーと手を組むニューヨーク検事局員に美形のナオミ・ワッツを持ってきた配慮は嬉しいのだが、ストーリーの進行上彼女がほとんど大きな役割を果たしていないため、存在感が薄くなってしまっているのも残念。
おそらく、あのラストシーンには異論が多々あるだろうと思われるが、巨大組織に単身で立ち向かう男がたどり着ける結果としては、あれが限界だろうと思われる。それにしても、きな臭い噂の多い銀行の頭取が、護衛も付けずに単身で出歩くなど、現実にはあり得ないのではないだろうか。そこに、作品のラストを飾ろうと制作側が苦しみ果てた痕跡が表れているように、私には感じられた。