評     価  

 
       
File No. 1140  
       
製作年 / 公開日   2009年 / 2010年01月23日  
       
製  作  国   イギリス / カ ナ ダ  
       
監      督   テリー・ギリアム  
       
上 映 時 間   124分  
       
公開時コピー   鏡の中は、わがままな願望でいっぱい
この迷宮から、大切なひとを救えるのか?
 

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   ヒース・レジャー [as トニー]
クリストファー・プラマー [as パルナサス博士]
ジョニー・デップ [as 永遠の美の世界のトニー]
ジュード・ロウ [as 才能と名声の世界のトニー]
コリン・ファレル [as 平和で自由な世界のトニー]
リリー・コール [as ヴァレンティナ]
アンドリュー・ガーフィールド [as アントン]
ヴァーン・トロイヤー [as パーシー]
トム・ウェイツ [as Mr.ニック]
 
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あ ら す じ    ロンドン。パルナサス博士が率いる一行、小人のパーシー、若い青年アントン、そして博士の一人娘ヴァレンティナらは車に設えた舞台を開き、通行人に呼びかけ始めた。彼らの演目は、人が心の中に密かに抱いている欲望の世界を見せるという“イマジナリウム”だった。博士の鏡を通り抜けると、博士の不思議な力によって人は誰もが自分の欲望の世界を体験することができたのだ。
 齢1000歳にも達するというパルナサス博士には、深刻な悩みがあった。それは、かつて悪魔のMr.ニックから不死の魂をもらう代わりに、娘のヴァレンティナを16歳の誕生日に悪魔に差し出すという約束を迂闊にも交わしてしまったことだった。約束の期限であるヴァレンティナの16回目の誕生日が3日後に迫っていたのだ。そしてその夜、一行は橋にぶら下がり首をつっていた1人の青年を助ける。その青年トニーは記憶を失っており、とりあえずはパルナサス博士一行に同行することとなった。
 次の夜、ニックの客引きのおかげで興行は大いに賑わい、誰もがパルナサス博士の鏡に大満足で惜しげもなく大金を払ってくれた。しかし、いくら金が集まったところで悪魔との約束には何の役にも立たなかった。かつてない大金を手にして大喜びの一行の中で、博士はひとり鬱屈した気分に沈んでいた。すると、そこに再びMr.ニックが現れ、博士に新しい賭をしないかと持ちかけるのだった。ヴァレンティナを助けるために否応なく悪魔との賭けに応じる博士。しかし、トニーに騙し取られた金を取り返しに来たロシアン・マフィアが逃げたトニーを追って鏡の世界に入り込み、鏡の中の世界は大混乱に陥る。そんな状況に乗じて、Mr.ニックは賭けに負けた博士に対し、ヴァレンティナを救う最後のチャンスを提示するのだった。果たして、ヴァレンティナを助けるために悪魔の申し出た条件とは・・・・・?
 
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たぴおか的コメント    あのブルース・リー亡き後、ユン・ピョウらが代役を務めて『死亡遊技』を完成させたように、ヒース・レジャーが急逝して未完成となったこの作品をジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルが代役を演じて完成に至った作品。幸いにも現実世界でのトニーはほぼ撮影済みだったようで、ジョニー・デップら3人はそれぞれ違った鏡の世界の中でのトニーを演じ分けている。何が幸いするかわからないもので、鏡の中のトニーを違う俳優が演じたことがむしろ作品に面白味を加える結果につながっている。そう、様々な欲望の世界の中でのキャラクターなのだから、顔が同じである必要は全くないのだ。
 監督は言うまでもない、『ローズ・イン・タイドランド』以来4年ぶりのメガホンを執るテリー・ギリアムなのだが、この作品では彼らしい独特の毒気が希薄で、あたかも炭酸の抜けきったコーラのような作品だと感じてしまうのは寂しい。しかし、小人のパーシーを演じたヴァーン・トロイヤーの存在や、悪趣味なミュージカル仕立てで警察を皮肉るなど、彼が彼である所以がうかがえて少し安心した。
 それにしても、テリー・ギリアムという男の頭の中は、一体どうなっているのだろうか?といつもながらに思わせる、彼のイマジネーションの世界は実に蠱惑的であり、それでいて嫌悪が表裏一体に同居している。おおよそ私のような凡人には思いつかないようなその幻想的でシュールな世界は、まさに彼のお手の物であり最も彼らしさが発揮されるところでもある。そしていかにも「テリー・ギリアムは健在だ!」と言わんばかりに畳みかけるように次々と幻想の世界を繰り出してくるところは、いかにも彼らしい茶目っ気にあふれている。
 それから忘れてはならないのが、ヒース・レジャーの冴えに冴え渡った怪演ぶりと、そのヒースの演技をコピーしながらも自分流に見事にデフォルメして演じてみせた3人の俳優たちの演技だ(と言いながらも、以前から嫌いな俳優の筆頭格だったコリン・ファレルだけは、どうしても受け入れられない。しかも、今回彼が演じたトニーはどことなくオカマチックでなおさらのこと好きになれない)。1人○役の逆で4人1役でトニーを演じ分けることにより、完成が危ぶまれていたこの作品が日の目を見ることになったのだ。ラストに表示される“A Film from Heath Ledger & Friends”の文字が、この作品の性格を端的に表現していると言えるだろう。