評     価  

 
       
File No. 2009  
       
製作年 / 公開日   2009年 / 2010年05月22日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   小林 政広  
       
上 映 時 間   134分  
       
公開時コピー   生きる道、
きっとある。
 

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最初に観たメディア  

Theater

Television

Video
 
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キ ャ ス ト   仲代 達矢 [as 中井忠男]
徳永 えり [as 中井春]
大滝 秀治 [as 金本重男]
菅井 きん [as 金本 恵子]
小林 薫 [as 木下]
田中 裕子 [as 清水愛子]
淡島 千景 [as 市山茂子]
柄本 明 [as 中井道男]
美保 純 [as 中井明子]
戸田 菜穂 [as 津田伸子]
香川 照之 [as 津田真一]
 
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あ ら す じ    まだ寒い四月の北海道・増毛。年老いた漁師の中井忠男は家を飛び出し、それを追いかけるのは大きな荷物を背負った孫娘の中井春。春は父・真一と離婚した母親を亡くして以来、小学校の給食係として働き忠男を支えてきたが、学校が閉校になって職を失ってしまい、東京に出て働くことを決意したのだった。そして、残される忠男には兄弟の所で世話になるように言ったのだが、それが忠男を怒らせてしまったのだった。
 最初に訪ねた先は、婿養子に出て気仙沼で暮らす反りの合わない兄・金本重男だった。忠男の横柄な頼み方に腹を立てた重男と喧嘩になってしまうが、実は重男と妻・恵子は老人ホームへ入って家は息子夫婦に譲ることが決まっていたのだった。次に訪ねたのは弟・行男のところだったが、偶然に出会った行男の内縁の妻・清水愛子から、行男は他人の罪をかぶって服役中だと知らされた。
 鳴子で温泉旅館を切り盛りする姉の市山茂子を訪ねた時、茂子から思わぬ申し出を受けた。行く末は旅館の後継者とするために春を自分に預けないかと言うのだ。ところが、当の春自身が「忠男と一緒にいたい」という理由で意外にもこの申し出を断ってしまうのだった。そんな春の思いを知らされたにもかかわらず、相変わらず春に対して我が儘放題の忠男。最後に仙台で不動産業を営む弟の中井道男と妻・明子の夫婦を訪ねたが、見栄を張っていた道男も実は事業に行き詰まり家計は火の車だと明子から教えられた。
 そんな忠男とその兄弟との再会を見てきて触発されたかのように、春は今まで会いたいと思ったこともなかった父に会いたいと言い出した。そして、忠男と春は北海道・静内で暮らす真一の元へと向かうのだったが・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    公開にさきがけて試写会で観てきたが、おそらくこの機会を逸したら劇場へは行かなかっただろうと思われる作品。祖父と孫娘の2人が、長らく疎遠にしていた肉親を訪ねて旅する一種のロードムービーで、頑固で偏屈な老漁師・忠男を演じた仲代達矢の重厚な演技はさすがに見応えがあり、ちょっと若い頃の広末涼子を思わせるような不思議な空気をもった徳永えりの演じる春との、老と若、剛と柔の好対照が非常に良かった。
 人的な要素と社会的な要素が対立することなく調和を保って取り込まれているのが特徴で、音信を断っていた姉や兄弟に久し振りに忠男が触れ合う中で、様々な人間模様が浮き出しにされると同時に、その背景には現代社会が抱える厳しい現実が常に横たわっているのだ。地球温暖化と環境破壊による地方の漁村での不漁と、過疎化による学校の閉校という発端がそもそも現在の地方都市はおろか世界規模で地球が抱える慢性的な病弊であり、息子夫婦に家を追われてホーム行きとなった兄・重男夫婦も核家族化に加えて高齢化社会となった日本が早急に解決しなければならない問題の典型的な例示だと言える。物置でもいいから置いて欲しいと頼む忠男にホーム行きが決まっていることを話さずに喧嘩になったのは、一つは弟に同情されたくないというプライドであり、同時に弟に余計な心配をかけたくないという思いやりから出たことだろう。それは道男も同じで、忠男を住まわせてやりたくともできないという事情がありながら、兄弟ゆえに素直に言葉にできないために暴言を吐いてしまう、そんな痛々しさ・やるせなさが痛切に伝わってくる。
 そんな中で、戸田菜穂演じる伸子の忠男に対する思いは優しさに満ちていてどれほど忠男の心を揺り動かしたことだろう。けれども、彼女ほどの優しさで赤の他人である忠男を受け入れるような度量を持った人間は、現実社会では稀有の存在であり、それは今の日本という国の窮状を如実に反映しているためでもある。そして、春の忠男に対する思いもまた伸子と同様に希少なものであり、それだけにラストシーンを見せつけられた後、春が一体どうなってしまうのか、不安を覚えずにはいられなかった。