今年の7月に公開された『黄色い星の子供たち』と同じく、ナチス占領下のフランスで行われたユダヤ人一斉検挙にまつわるエピソードを描いた作品だが、この作品はそれだけではなく現在を生きる主人公ジュリアを通して、過去と現在を巧みに交錯させているのが秀逸だ。
まだ幼かったサラのこと、弟を納戸に隠れさせて鍵をかける、その行為がどういう結果に結びつくかなんて想像もしなかっただろう。おそら、すぐに家に帰ることができる、そう考えてしたことに違いない。しかし、その行為が後々までサラの心にトラウマとして残ることになってしまう。
そんなサラの半生を直接描くのではなく、現代に生きる女性、クリスティン・スコット・トーマス扮するジュリア・ジャーモンドを通して間接的に描いているのがこの作品のポイントだ。ジュリアはサラの足跡を追うと同時に、現在自らが置かれているシチュエーションを顧みながら、夫から反対された出産に対する考えを突き詰めていく。そして観る者は、彼女と感情を共感することによって、観ている者はより切実にサラを感じ取ることができる。
作品の原題“ELLE S'APPELAIT SARAH”を英訳すると“Her name is Sarah”。それは、「私の名前はサラ・スタルジンスキ」と名乗ったユダヤ人の少女のことでもあり、また、現在においてサラの息子に対してジュリアが「彼女の名はサラ」と紹介した彼女の娘のことでもある。「命は引き継がれる」などと思うのは大袈裟だろうか?