評     価  

 
       
File No. 1678  
       
製作年 / 公開日   2012年 / 2012年10月20日  
       
製  作  国   日  本  
       
監      督   園 子温  
       
上 映 時 間   133分  
       
公開時コピー   それでも世界は美しい
  
突然おとずれた不安、痛み、苦しみ、別れ・・・・・・
ただ、愛するものを守りたい
 

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最初に観たメディア  
Theater Television Video
 
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キ ャ ス ト   夏八木 勲 [as 小野泰彦]
大谷 直子 [as 小野智恵子]
村上 淳 [as 小野洋一]
神楽坂 恵 [as 小野いずみ]
清水 優 [as 鈴木ミツル]
梶原 ひかり [as ヨーコ]
菅原 大吉 [as 志村]
山中 崇 [as 加藤]
河原崎 建三 [as 産婦人科医]
筒井 真理子 [as 鈴木めい子]
でんでん [as 鈴木健]
浜田 晃
大鶴 義丹
松尾 諭
吉田 祐健
並樹 史朗
米村 亮太朗
吹越 満
伊勢谷 友介
手塚 とおる
田中 壮太郎
本城丸 裕
深水 元基
大森 博史
占部 房子
井上 肇
堀部 圭亮
田中 哲司
 
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あ ら す じ    東日本大震災から数年後の長島県を舞台とする。酪農を営む小野泰彦は、妻・智恵子と息子・洋一、その妻・いずみと、平凡ではあるが満ち足りた暮らしを営んでいた。隣に住む鈴木健と妻・めい子も、恋人・ヨーコと遊んでばかりで家業を手伝おうとしない息子・ミツルに文句を言いながらも、仲良く生活していた。しかしある日、長島県に大地震が発生し、続いて原発事故が起きる。そして、事態は人々の生活を一変させるのだった。
 警戒区域が指定され、鈴木家は強制退避が命じられたが、道一本隔てた小野家は避難区域外だった。泰彦は、洋一夫婦を自主的に避難させるが、自らは住み慣れた家に留まる。その後、泰彦の家を含む地域も避難区域に指定され、強制退避の日が迫る中、泰彦は家を出ようとはしない。その頃、転居先でいずみが妊娠するが、喜びも束の間、同じ妊婦の母乳から放射線物質であるセシウムが検出された話を聞いたいずみは、わずかな放射能にも怯えるようになる。
 一方、能避難所で暮らしていミツルと恋人のヨーコは、瓦礫だらけの海沿いの街で、消息のつかめないヨーコの家族を探して歩き続けていた。果たして、原発に翻弄される人々に明るい未来は訪れるのか・・・・・。
 
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たぴおか的コメント    昨年3月の大震災の惨状を目の当たりにして衝撃を受けた園監督が(そのことは、前作『ヒミズ』の舞台を急遽震災後の被災地に置き換えたことからもうかがえる)、被災地での入念な取材を元に、地震によって原発事故と津波の被害を被った架空の町に生きるごく平凡な家族を主題に描いた社会派ヒューマン・ドラマ。園監督にしてはいささか毒気に欠けるように思えたが、実は作品のタイトル自体に強烈な皮肉が込められているように思う。
 私はてっきり東日本大震災を描いた作品だと思っていたが、観てみるとそうではなく、東日本大震災を経験後の日本での出来事で、完全なフィクションだった。ただ、舞台となる長島県は、どうやら福島県がモチーフになっているようだ。主となる登場人物は主演に夏八木勲、その妻役に大谷直子、そして園監督作品には欠かせない神楽坂恵、でんでんらが名を連ねている。、また、園監督作品の常連とも言うべき多くの役者がカメオ出演していて、私はエンド・クレジットのキャストを観てその多さと同時に、ほとんど誰にも気づかなかったことに驚いた。多分もう一度そうと知って観ても、全員には気づかないんじゃないだろうか。
 上にも書いたとおり、タイトルの『希望の国』は、日本が希望に満ちた国だという意味などでは決してなく、そこにはシニカルなアイロニーが込められている。東日本大震災を経験しながらも、対応が常に後手後手に回る国や地方公共団体。必要な情報を公開しない国。道路を挟んで鈴木一家が強制退去になり、小野一家は20km圏外だからとそのまま放置されるくだりなどは、あまりに杓子定規的なお役所仕事に対する批判以外の何物でもない。
 必要以上に(果たして本当に必要以上なのか疑問はあるが)放射能に怯え、防護服を着用して外出するいずみは一見滑稽だが、それを過剰反応だと笑うことができるだろうか。これが他の監督ならば、いずみが洋一にさらに長島県から遠く離れた場所への転居をせがむような設定になるのだろうが、敢えていずみを周囲から白い目で見られるような設定にしたのは園監督ならではのブラック・ユーモアだろう。だがそれは、人は誰でも「自分だけは大丈夫」という根拠のない安心感を抱くことに対する痛烈な批判だと私は思う。
 園監督の強烈な毒気と言えば、ラストで泰彦・智恵子夫妻の選択、そして、さらなる転居先でガイガーカウンターの値に呆然とする洋一に、いずみが「愛があるから大丈夫」と言い聞かせるシーン、これらはまさにその典型だろう。そう、希望のくにどころか、むしろ絶望の国と呼ぶ方がふさわしい、観る者がそんな感想を抱きかねないラストの後に初めて表示される「希望の国」という、監督自筆のタイトル。これを皮肉と言わずして何と言うべきだろうか。